
比婆地方と呼ばれる広島県北の東部地域のブランド牛肉『比婆牛(ひばぎゅう)』を知ればその美味しさのヒミツがわかります。
そもそも『比婆牛(ひばぎゅう)』ってどんな牛?
・その牛の父、母の父、母の母の父のいずれかが広島県種雄牛であること
・庄原市内で生まれ、JA庄原管内で最長期間肥育されたこと
・肉質等級が3等級以上であること
・市が指定した県内のと畜場でと畜された黒毛和種の去勢牛、
または未経産牛であること
これらの要件をすべて満たしたものが『比婆牛』なのです。

ブランド牛の起源は中国山地の集落にあり!
中国山地には、最古の4大蔓牛といわれるブランド牛が存在します。
・岡山県阿哲郡の「竹の谷蔓 たけのたにづる」(1830年)
・広島県比婆郡の「岩倉蔓 いわくらづる」(1843年)※比婆牛のルーツ
・兵庫県美方郡の「周助蔓 しゅうすけづる」(1845年)
・島根県仁多郡の「ト蔵蔓 ぼっくらづる」(1855年)
(全国和牛登録協会において「日本最古の蔓牛」として認定)
ちなみにこの頃の歴史をみると・・・
1833(天保4)年、歌川広重の「東海道五十三次」の浮世絵ができる。
ブランド牛の歴史は江戸時代から始まっていたんですね。
「蔓(つる)で牛のブランド化」ってどういうこと?
「蔓」といえば、植物がどんどん伸ばして巻きつくあの「蔓」?それともメガネの耳にかける部分のあの蔓?
実は、ここで出てくる「蔓」とは、優良な系統・血統のことで、「蔓牛(つるうし)」とは、優良な系統・血統を持つ雌牛という意味です。
限定した地域で飼われ、交配して優良な形質を固定することに成功した牛を「蔓牛」と呼びます。
天才!岩倉六右衛門と比婆牛のルーツ「岩倉蔓」
牛は、古くから農耕に使う役牛として飼われていましたが、だんだんより優秀な役牛が求められるようになっていきます。それで、扱いやすくて力の強い牛が人気となりました。
江戸‐明治時代(1818-1896 年)に生きた岩倉六右衛門(旧広島県比婆郡比和村、現広島県庄原市比和町)は、牛の品種改良を志し、天保14年、地元の優良な雄牛をもとに血統の優れた「岩倉蔓」をつくりあげました。妻イシも卓越した牛飼いの名手だったと伝えられています。六右衛門は、遺伝子学はもちろん、遺伝子の概念さえもまだ無かった幕末に、近親交配を重ねて牛の育種を図ろうと考えた驚きの着想を持つ畜産家でした。
当時は、母牛が良い牛であれば良い子牛が生れてくると考えられていました。六右衛門は優秀な牛を育てるには、良い父牛をよく選んで計画的に交配したらよいのではと考えます。そして優良な形質に関係している遺伝子が固定し系統(蔓)ができました。さらに、良く育つように飼い方を工夫したり放牧中には食塩を補給したりして注意深く牛を飼育するなど、牛飼いに情熱を注ぎました。
こうして最古の蔓牛「岩倉蔓」が生れ、後の「あずま蔓」の誕生に結びついていきます。
後に六右衛門は、その功績が蔓作出者中随一と称えられ、明治33年(1900年)に農商務大臣より追賞されました。
その子孫「あづま蔓」は超エリート牛
明治時代には、比婆郡帝釈村で岸万四郎氏が造成した「有実(ありざね)蔓」が名声を博していました。
後に昭和になってからこれら「有実蔓」の父牛を辿ると、大正7年比婆郡小奴可村に産した「第10野田屋」号であることがわかりました。
また、母牛は「岩倉蔓」でした。母系に岩倉・有実の両蔓を、父系に「第10野田屋」号の遺伝子を持つこの牛をさらに改良したのが「あづま蔓」です。
昭和23年に「あづま蔓牛組合」を結成し、近代的な集団育種事業を始めたことで誕生したのが固有の系統「あづま蔓」なのです。
この後、「あづま蔓」は、名牛と呼ばれる牛を輩出していきます。
全国和牛登録協会が第1号として育種登録した「第21深川」号、共進会(牛の品評会)での成績が優れた「第38の1岩田」号などの名牛が誕生します。
和牛のオリンピックと呼ばれる全国和牛能力共進会で次々と優秀な成績を収めました。

現在は本格的な比婆牛ブランドの復活に向け、母牛となる「あづま蔓」系統の牛を増やそうと、庄原市の畜産農家とJA、そして庄原市(広島県庄原市)が一緒になって取り組みを進めているそうです。
母牛あづま蔓認定 ※あづま蔓振興会認定
・庄原市内で飼育されている繁殖用雌牛であること
・繁殖用雌牛として飼育されている黒毛和種であること
・「第38の1岩田」の遺伝子保有率が5%以上であること

と、ここまで「比婆牛」のことを知ったら、もう食べに行くしかないでしょう。
比婆牛食べたい!ということで、2014年12月6日に「比婆牛を喰らう会」を企画しました。
道の駅遊YOUさろん東城の中にある鉄板焼きレストラン「雄橋(おんばし)」(広島県庄原市東城町川東877)に集合!
目の前の鉄板でシェフにステーキを焼いてもらう贅沢。そして食べてみると・・
比婆牛ってなんて美味しいんだろう。特にヒレ肉はもう異次元の美味しさ。
予算は高めだったけど、食べるとその味に納得するしかない! その夜は、比婆牛でも特に質の良いものが手に入ったということで、参加した10人は比婆牛のステーキを思い切り堪能しました!

参考文献:『和牛種雄牛系統的集大成』(社)全国和牛登録協会
「広報しょうばら2014年8月号」庄原市
by RIE KIKKAWA
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