
2015年、最初の比婆郷土料理研究会を1月17日に開催しました。今回のテーマは、『雪消し鍋と冬の保存食レシピ』。雪深い比婆地方ならではの、雪のころの料理を”ひばん婆お富”こと、比婆郷土料理研究家の小林富子さんに教えてもらいました。
小林富子さんに教わった「冬は料理に手間ひまかけること!」。この深い意味が、今回よーくわかりました!
雪降る季節に春を待ちわびる料理 『雪消し鍋』
1年で最も寒い時期とされる「大寒(だいかん)」。2015年の今年は1月20日でした。
ほんと、ここのところ雪もよく降るし、最低気温がマイナスになることもしょっちゅう!
そんな雪深い比婆地方ではこの時期、早く雪が消えて暖かくなるよう願って「雪消し鍋(ゆきけしなべ)」を食べていたそうです。
小林富子さんが昔聞いた話によると、「雪消し鍋」はもともと西城町(広島県庄原市西城町)にある旅館のまかない料理だったそうです。
たたら製鉄で町が栄えていた時代に男衆がたたらの仕事の後、その旅館に大勢訪れるので、とても忙しく、そこで働く給仕の女衆は毎晩遅くまで働いていました。
それで、旅館のおばあさんが「早く雪がとけて暖かくなったらええのぉ、よう頑張ってくれたなぁ」と女衆へのねぎらいとして、お餅とありものの食材を使ってふるまったのが「雪消し鍋」のはじまりだったそうです。
その後、西城町の旅館で働いていた女衆のうちの何人かが東城町にある旅館で働くようになった際、「雪消し鍋」のレシピを伝え、隣の東城町(広島県庄原市東城町)でも広まったと教えてもらいました。
「雪消し鍋」は鍋というより、お餅の入ったお雑煮のような感じです。
鶏肉(今回は帝釈峡しゃも地鶏)、なば(きのこ、今回はしいたけ使用)、人参、ごぼう、ねぎをいりこ出汁で煮てから、しょうゆとみりんで味を調えつゆを作ります。やわらかく煮たお餅に、このつゆをかけて食べるのですが・・・ 実は最後に、この鍋のメイン食材を入れます。
それは、すりおろした山芋!
真っ白なすりおろした山芋をのせるのが特徴で、これは、熱いつゆを上からかけたとき、トロっと山芋がとける様子を雪がとける様子に見立てたものだそうです。
だから「雪消し鍋」なんですね。なるほど!山芋で納得!

「冬は料理に手間ひまかけること!」って、どういうこと?
農作業ができない冬は、女性も毎日の農作業から解放され、比較的時間に余裕ができました。そこで、少しでも家族の食がすすむよう、女性たちは冬には手をかけた料理を作っていたそうです。
例えば・・・
「青菜の白菜巻き」は、茹でた白菜の葉で、茹でてしょうゆ洗いした(絞ってしょうゆにつけてから、また絞ること)ほうれん草と、棒状に切って茹でた人参をクルクルっと巻きます。
食材を巻くと、切って盛り付けたときの断面がきれいになるのです。
ようは、「おひたし」なんだけど、ただの「おひたし」ではなく、どうにか食卓を彩り豊かなものにして家族に美味しく食べさせたいという思いがこもった料理だったのです!
それから、「さつま芋の茶巾絞り」。
まず、蒸して裏ごししたさつま芋に砂糖と塩少々を混ぜ込みます。その時に少しだけ、裏ごししたさつま芋を取り分けておき、それに抹茶を混ぜ込み色を付けます。
さつま芋生地を下にして、その上に抹茶で色を付けたさつま芋生地をのせて、一緒に布に包んで絞ったようにして形を整えます。するとグラデーションになって、見た目のきれいな茶巾絞りができます。
ただ、さつま芋を蒸すだけでも十分美味しいんだけれども、見た目でもっと美味しく見えるように手をかけ、こどもたちのために冬のおやつを作っていたそうです。
「冬は料理に手間ひまかけること!」 食材の少ない冬、手をかけて少しでも家族に美味しく、そしてきれいに盛り付けた料理を食べさせたいという女性たちの家族への深い愛情が食卓にあらわれていたのです。
冬の農家の食卓は家族を思う気持ちのあらわれ、そして「雪消し鍋」も働く女衆へのねぎらいの気持ちのあらわれ。
やっぱり料理は愛情だなと、改めて教わった今回の比婆郷土料理研究会でした。

by RIE KIKKAWA